【対談】APIによるデータ活用モデルの展望 < Session 1 > データ活用が拓くDXの進化 - CCCマーケティング株式会社 橋本 孝一 氏
CCCマーケティング株式会社様は、「UNIQUE DATA, SMALL HAPPY.」 というミッションを掲げ、自社の持つデータをいかに市民・社会貢献に活用できるかを考え、事業に取組まれています。その中で7,000万人を超える会員のライフスタイルデータをもとにデータベースマーケティングを行い、会員様への付加価値を付けたデータの活用と、社会に価値還元するためのデータのオープン化を目指していらっしゃいます。企業において「データの活用」によるビジネスモデルは、より拡がりを見せています。その際にシステム面で必要となる要素のひとつにAPIがあります。このAPIを活用したデータ活用の具体例や将来についてご紹介します。
CCCマーケティングの取組み
末貞)CCCマーケティング橋本様より、データ活用に伴うこれからの展望についてお話いただきます。まずはCCCマーケティング様の現状のお取組みについてお伺いします。
橋本氏)まず、CCCはデータマーケティングをやっている会社である、ということについて紹介したいと思います。CCCの中には「蔦屋書店」というグループ、そしてもうひとつの「CCCマーケティング」というグループで皆さんご存じのTポイントの事業を行っています。その中で小売・流通業、様々なアライアンスとしてTポイントを扱っていただいている企業様がいらっしゃり、その企業様のデータをお預かりしてデータベースマーケティングを行っている、という構造になります。
CCCマーケティングは3年位前から「UNIQUE DATA, SMALL HAPPY.」というミッションを掲げ、世の中の社会課題の解決のためにデータを開放していくことで、データベースマーケティングの会社になる、という方向に舵を切ったというわけです。Tポイントというのはデータを頂くためのひとつの手段、その集まったデータをマーケティングして世の中にお返ししていく、というビジネスを展開しています。
その基盤となるT会員様は7,000万人を超えており、1人で数枚持たれている方も名寄せをして1枚と定義することでユニークユーザとして、また1年に1度でもカードを使って頂けばアクティブユーザとしてそれぞれ定義しています。1年に1回でもTポイントを使って頂いている会員様が7,057万人(2021年9月末現在)いらっしゃるということになります。内訳でいうと、月間約4,200万人、週間でも約2,400万人強の会員様が日々のお買い物に使ってくださっている、というボリューム感になります。これだけトランザクションを稼いでいるというところは少ないと思います。生産人口の7割強の方が持ってらっしゃるので、男女比も日本の年代別の人口構成とほぼ同じの半々くらいとなっています。特徴的なのは、10代ごとの年代別でも、万遍なく70%くらいの方々に使って頂いています。
データの中身としては、POSと連動していることで、クレジットカードのみの情報では入手できない細かい購買履歴のデータも補足できています。これらのデータをAI分析することで、我々は「顧客DNA※1」と呼んでいますが、CCCオリジナル分析手法によって導き出された志向性などの傾向データをもとに会員様の分類を行っています。
これまではカードを提示しその情報を頂く対価としてポイントを付与していましたが、世の中ポイントが当たり前の世界になり、今、ポイントをもらうためにカードを出すという感覚はなくなってきていると思います。我々は、データの価値をポイントではなくダイレクトに会員の皆様に価値還元するために、データをオープンにしていくこと、このデータのオープン化※2に3年前より取組んでいます。
データは、個別のお客様やPOSから、また各アライアンス企業様から頂いています。各企業様とはそれぞれ異なる仕様で繋いでいるのが現状ですが、ひとつAPIを準備しておくことでデータを繋ぐことができるのでは、という点で今後ブリスコラと協業できればと思い、本日もお話をさせて頂いています。
企業におけるデータ活用に向けたシステムの現状
末貞)DXといっても、企業が保持しているデータに価値がある、と気づかれているお客様はまだ少なく感じます。データに近いところでビジネスをされている企業がいち早く気付かれている程度です。お客様からは、今の設計では外部にデータも出せず運用も大変なので、ひとつひとつのシステムを小さくしたい、という要望が多くあります。その手段がAPIなのです。
橋本氏)1つずつのシステムを小さくするというのはどういうことですか?
末貞)システム業界的には「マイクロサービスアーキテクチャ※3」といわれています。1つジョブ型でシステムを作ると大きくなり不具合が起きるとシステムが止まってしまうことで大問題になります。それを機能ごとに分解し、それぞれをAPIで連動させて一つに見せる、という構成にすることで、ひとつサービスが止まっても他のサービスは動いており、データベースも1つでできる、これがマイクロサービスです。
必ず「APIは外にだせますよね?」というお話がでてきます。経営陣はビジネスモデルとしてデータを外部に出すことに興味がある、ただシステム部としては何とか運用をスムーズにしていきたい、その際にどちらもAPIで実現する、それがオープンAPI※4 なのです。
先ほどの橋本さんの話にもあったデータを連携して、という点でデータの授受はなかなか難しい。企業側からオープンAPIを通してデータを出していく、システム的には「APIを用意しておくので、自由にとってください」というのを企業に対しひとつひとつ作っていくことで、先ほど橋本さんがおっしゃっていた「APIによるデータ連携」というマーケットが早くできるのではと思っています。
橋本氏)自社で使うデータレイク・DWH※5 は準備しているのですが、次は開放していくときにクラウドベースでそのデータをあげて、APIを準備し、そこにID/PWで見に来てください、という世界を我々も早く作りたいと思います。
末貞)企業の文化はそれぞれあると思います。各企業がそれぞれに連携しあって、1つのサービスを国民、企業、社員に出そうとすることで文化が交流する。その点もAPIの面白さ、垣根を越えていくというところに魅力を感じています。
橋本氏)垂直統合型でデータを全て自社でもつGAFAといったプラットフォーマーは、データを自分たちのものとして、いかにビジネスに活用していくかを考えているでしょう。我々は水平にオープンにしていきたいという発想でやっています。本来、このモデルを作ろうとすると1つのIDでどのデータにもアクセスできるというのが美しい姿かと思うのですが、なかなかそうはならないのです。IDの管理、IDを使ってどうデータを見に行くのか、というところとAPIの関係はどうなるのですか?
APIが実現するデータ活用の未来 ~ IDとAPIマネジメントの重要性 ~
末貞)まだ日本国民全員にひとつのIDがないのが現状です。マイナンバーは公的サービスしか使えず、官民連携で使えるという点が整っていないのです。APIはWEBでのアクセス処理と一緒です。WEBでアプリケーションにアクセスするときはIDが必要ですよね、それと同じことがAPIにも起こりえるのです。データを漏らさずにAPIにどこからでもアクセスできるようにするために「APIマネジメント※6」が必要となります。IDの情報を引き受けて、「どのアクセスを・どのように・だれに・どこに」アクセスさせるかをコントロールする、このAPIマネジメントがしっかりできていないと実現できないのです。IDとAPIマネジメントとの連携が非常に大変で、1億2,000万人のIDを受け止めるシステムというのは今までまだ無く、そこがチャレンジになります。
ただ、テクノロジー的にはできるのです。Yahoo、Facebook 、GoogleといったIdP※7といわれるIDを管理するプロバイダーにその部分を流用させていただきアクセス管理するというのが最近のトレンドで、それが「認証認可※8」というやり方になります。ID、認証認可、API、APIゲートウェイというのが連携すると、橋本さんが疑問になられている仕組みができあがると思います。
橋本氏)ブリスコラはその連携の中でAPIに特化されているということですか?
末貞)APIをどう設計するかをアドバイスしていますが、API自体を整えることはほぼありません。その前のAPIゲートウェイといわれている、APIをコントロールする仕組みを我々のソフトウェアで提供させていただいています。基本IDはご自身で持たれているものか、外部のIDを活用されているか、のどちらかでAPIとIDの連携テストを行っています。
橋本氏)その部分はセキュリティも含めてみられているのですか?
オプトイン社会の実現に向けて
末貞)まだ国もこの仕組みへのセキュリティ基準を出していません。オプトイン社会といわれている中で、オプトインのシステム=「だれが」「どこに」アクセスしてよいのかをその本人が許諾すること、この「だれが」「どこに」を実現するのに「認証認可」があります。「どこにアクセスしてよいか」というのをコントロールしデータを流通させるところが一番難しく、かつ重要なのです。
橋本氏)そこはサービサーといわれているサービスの塊に許諾するのか、その中の1つのサービスに許諾するのか、オプトインにも階層がありそうですね。
末貞)細かくすればするほど、システムも難しくなる。全部OKです、と許諾すればシステムも簡単なのですが。データセンターの中にあるいち企業の仕組みではなく、サービサーが複数いてインターネットで繋がり、その上でさらに仕組みをひとつとして統合させる、というところが一番面白くて一番難しいところかなと思い取組んでいます。
橋本氏)まさにスーパーシティですね。
末貞)そうですね。Session 2では、スーパーシティAiCTコンソーシアムでの活動についてお話ができればと思います。よろしくお願いします。
写真左) CCCマーケティング株式会社 取締役 橋本 孝一 氏
1992年より経営コンサルティングファームにおいて、主に電力・ガス業界の小売流通自由化における戦略、マーケティング業務に関わる。BPRやIT戦略立案、プロジェクトマネジメント業務を多数手がける。2000年にカルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社にて、Tポイントの企画立案、事業立上を行ったのち、黎明期のネットリサーチ事業の経営に携わる。2011年から社会起業家として、一次産業の六次産業化や地産地消をテーマに取り組む。現在は、会津若松市の「地域主導型スマートシティプラットフォーム(都市OS)」構想に賛同し、官民データ連携、オプトイン社会の実現のために、「T」のデータを社会に還元すべく活動中。
写真右) 株式会社ブリスコラ 代表取締役 末貞 慶太郎
外資金融機関を経て、2000年よりIT業界にて、海外のハードウェアやEAIソフトウェアを販売。2008年より株式会社インターネットイニシアティブの事業企画担当として、松江のPUE1.1のコンテナデータセンターなど多数のプロジェクト立ち上げを担当。2010年6月株式会社ブリスコラを起業し、クラウドにフォーカスした戦略コンサルティングやIoTプラットフォームサービスの提供を開始。2015年日本で初めてAPIマネジメントのOSSツール「Kong」をベースにしたサブスクリプションサービスを展開。また米国Kong社(旧Mashape社)と世界初の代理店契約を締結。APIを活用した先進的なシステム導入実績を重ね現在に至る。